子供の矯正治療 本当に必要なのか。悪い歯並びの原因は?いつから始めればいいの?費用は?痛みとかの副作用はあるの? (顎顔面矯正をお勧めする理由とは!)
大切なお子さんの健全ですこやかな成長、女の子であれば将来美しく、男の子ではたくましく育ってほしい と親なら誰もが願っている事だと思います。
健康的な身体と綺麗な歯並び、美しい笑顔は一瞬で相手に好印象を与える事になり、おおげさではなくその後のお子さんの人生を変えてしまうと私は考えています。
ではなぜ歯並びは悪くなるのでしょうか?その原因はなんでしょう?また子供の時期から矯正をした方がいいのは何故なんでしょうか?
よく言われませんか?
「永久歯の生え替わりまで様子をみましょう!!」
これは歯医者として言いますが非常に無責任な発言だと私は考えています。
文献(世界の論文)からのレビューでは放置して自然に良くなる(正常咬合)になる確率はなんと10%以下(6.4%)と言われています。
つまり放置していては絶対に治らない!
と言ってもいいと思います。
お子さん本人はわかりませんから、親御さんが『なんかおかしいな?』と思った時が治療の開始時期だと思います!
もくじ
不正咬合(悪い歯並び)の原因は?
子供に時期の不正咬合のすべての原因は結論から言うと
上顎骨(上あご)の発育不足が原因
と言われています。世界的な文献(論文)でも多数発表があります。
歯並びを悪くする習慣(悪習慣)として指摘されているものは
- よく噛まない
- 指しゃぶり、頬杖
- 口呼吸による機能障害
などがありますが、特に多いのが口呼吸による不正咬合です。
最近の子供達の特徴として感じるのは、上顎(上のアゴ)が狭く、鼻閉があり口呼吸をしている子供が多いです。ある調査では実に70〜80%の子供達が程度の差はあるけど口呼吸になっているといわれています。
正常な舌の位置は上のアゴに接していますが、口呼吸の子供達は口で呼吸しないといけないので舌の位置はより低い位置 もしくは前方に置くようになり食べるときにペチャペタ音を立ててしまい、またイビキをかく子供が多いです。
その他の以下の症状が口呼吸の特徴です。思い当たる方は要注意です!
- いつもポカンと口が開いている
- 食べるときにペチャペチャ音を立てて食べる
- 猫背で姿勢が悪い
- イビキがひどい
- 寝起きが悪く、しばらくボーッとしている
- 扁桃腺が腫れやすく、風邪をよくひく
また口が常時ポカンと開いていると頬の筋肉が弱くなり、その結果上の臼歯の歯列が内側に入ってしまいV字型の歯列になってしまい、舌を前に突き出す癖がつくと開咬となってしまいます。また口の中の体積が狭くなり様々な機能障害を引き起こす原因になります。
V字型歯列、開咬の典型例
私のクリニックでもよく見られる悪い歯並びをあげてみます。
1 出っ歯(上顎前突)
いわゆる出っ歯(上顎前突)。一見上の顎と骨が前に出ているように見えますが、実際は上顎骨の幅が狭くて下顎骨(下の顎)が後ろに引っ込んでいるケースが日本人始め東洋人には80%以上と言われています。
2 受け口(下顎前突)
これは放置していてはいけない不正咬合です!
受け口とは、顎と歯が前に出ている状態で前歯の噛み合わせが逆になっている状態です。これの原因は大きく3つあります。
- 上顎骨が短く、下顎骨は正常。
- 上顎骨は正常で、下顎骨が大きい。
- 上顎骨は短く、下顎骨は大きい。
やはりこれも上顎骨の奥行き(前後の長さ)が短くて、実は下顎骨の大きさは正常範囲なのに下の歯が前に出ている状態の場合が日本人には一番多いです。(70〜80%) あとのケースは遺伝要素が大きく将来外科矯正になる事が多いです。
3 交差咬合
これも放置していてはいけない不正咬合です!
放置すると顔全体が歪んで成長してしまいます。特に女の子(男の子もそうですが)は思春期やお年頃になると非常に悩みます。実際に当院でも20代の女性が何人も相談にいらしてます。
成長期が終わって顔の歪みを治す方法は多くは外科矯正になってしまいます!顎の骨を切って組み直す治療で確かに綺麗に治りますが、入院が必要で身体の負担は大きいです。
できるだけ低年齢、できたら5歳ぐらいで気づいて治療始めれば綺麗に治りますしその後の成長発育も良い方向に導くことが可能です。
4 乱杭歯(叢生 ガタガタの歯、八重歯)
いわゆる昔でいう 八重歯 です(私が子供の頃はアイドル達もこの歯の状態が多くむしろ可愛いとさえ言われていました。)
歯のサイズとそれが並ぶ土手である歯槽部(歯肉部)のサイズがアンバランスで並びきらない状態を言います。
5〜8歳の間に顎を大きくする処置をすれば多くのケースで歯を抜く事なしにきれいな永久歯列に誘導する事が可能です。(一部例外はあります。)
これは放置して高校生ぐらいからでも治すことが可能です。
抜歯をする(通常は上下左右の小臼歯を合計4本抜歯します)と言うことは口の中の体積が小さくなります。
口の中には「舌」があります。もし口の中の体積が小さくなってしまい、かつ舌の収まる空間が狭くなってしまうと舌は喉の方に後退してしまい、その結果
呼吸のための空気の通り路である『気道』を圧迫してしまいます。
これはいびきがひどくなる原因になります。
場合によっては完全に封鎖されると
いわゆる『無呼吸症候群』
になってしまう事が近年指摘され始めました。
ここで注意したい事はこの2点です。
- 寝ている時に常時イビキをかく子供
- 鼻呼吸ができず口呼吸の子供 アデノイド等喉の扁桃腺に問題がある子供
この場合は元々呼吸系に機能障害がある場合が多く、将来においても舌の後退は良くないことが考えられます。
つまりイビキをかく子供は将来抜歯矯正する事によって更に気道を狭くしてしまうリスクを負っている可能性が高いと考える方が無難です。
6歳あたりの乳歯の段階で隙間が全くなく一見綺麗な歯並びをしているお子さんは上下ともに顎が狭く、ほぼ100%永久歯はガタガタになります。
更にイビキをかき、かつ口呼吸で冬場になると扁桃腺が腫れやすいお子さんは、ぜひこの時期に
顎を大きくする治療を考えてあげてほしいと願います!
上顎を拡げると鼻呼吸がしやすくなり口呼吸がほとんど改善する事が多いです。その理由は後述します。
5 開咬(奥歯だけが当たっていて前歯が噛んでいない状態)
奥歯だけが当たって前歯が当てっていない状態です。
前歯でかみ切る事ができません。食物をしっかりと噛み切り、噛み潰す事ができないため丸呑み傾向が強いです。
これも上顎骨の成長不足から舌が本来の場所に収まる事が出来ず、物を飲み込む時に舌を前歯の隙間に突っ込んで蓋をする癖がついてしまい、やがて下顎全体が後方に回転してしまい、前歯が当たらなくなってしまった状態です。
6 過蓋咬合(噛み込みが深くて下の前歯が見えない状態)
これも上顎骨の幅が狭いのが始まりです。
上顎の幅が狭いため下顎の歯列が前に出る事が出来なくなって、結果後ろに後退してしまい前歯が全く噛み合わなくなって下の前歯が上の歯肉を噛むまで伸びてしまいます。(歯は噛み合わせがなくなると動くんですよ!)
なぜ現代っ子は歯並びが悪い子が多いのか?
これはちょっと語弊があるかもしれません。歯並びが悪い子供は昔からいたのは確かです。
しかし私が歯科医師になって30年、開業してから24年経った今感じている事があります。
実際歯並びが悪い子は多いですが、その事よりも20年前に比べて機能障害を持っている子供たちが格段に増えてきた感じがします。つまり鼻呼吸ができない子供(口呼吸になる)が多いのに驚きを感じます。
- いつもポカンと口が開いている
- 食べるときにペチャペチャ音を立てて食べる
- 猫背で姿勢が悪い
- イビキがひどい
- 寝起きが悪く、しばらくボーッとしている
- 扁桃腺が腫れやすく、風邪をよくひく
口呼吸の弊害の補足記事は以下をクリックして下さい!
何故 子供の時期から矯正しないといけないのか。
子供の歯並び(不正咬合)と呼吸の関係
上顎は舌が当たることによって刺激を受けて成長するといわれており、その刺激が少ないと成長不足となり幅が狭くなってしまい歯の萌出スペースが不足します。
さらに上顎が狭くなると下顎も連動して幅が狭くなり臼歯が内側に倒れてしまい舌が収まるスペースが狭くなります。
上顎が成長不足で狭いとその上にある上気道の鼻腔底も成長不足で狭くなり、鼻閉が起こりやすく口呼吸になってきます。その結果扁桃肥大で風邪をひきやすく、鼻アレルギーの憎悪の要因となっている事が多いです。
口呼吸と姿勢の関係
口呼吸の習慣が長く続くと姿勢にも悪い影響が出てきます。呼吸が苦しいために頭部は後屈(後ろにそる)し、首(頚椎)は前法に傾斜して、下顎は後退(後ろに下がる)した状態になってきます。
その結果いわゆる『猫背』の状態になってきます。この猫背の姿勢は口呼吸するお子さんが一番呼吸するために楽な姿勢で無意識になってきます。
『姿勢が悪い!』といくら親御さんが注意しても呼吸しないといけませんから、口呼吸の問題を解決しない限りこの姿勢を治すことはできません。
イビキはお子さんの身体からのSOS!
寝るときにイビキをかくお子さんは、口呼吸でもともと気道が狭い上に寝るときは横になって舌が喉の方に下がって気道を狭くしますから要注意です。
この状態がひどくなると子供でも『無呼吸症候群』になる事があります。
またこの状態は酸素不足で熟睡できませんから睡眠障害が起こり、寝起きが悪く、ボーっとする事が多くなります。
それよりもっと問題は成長ホルモンが充分でなくなり、低身長、低体重が起こったり、情緒の不安定で落ち着きがなくなったりの原因にもなります。
小児矯正が必要な理由は!
大人(成長期が終了した)の機能回復による形態改善は困難になります!(外科的な方法が必要 外科矯正 美容整形、、)
以上の理由から私は小児成長期の正しい治療は必要であると考えます!
具体的には何をするのか。(治療の方法)
全ての不正咬合の始まりである上顎の劣成長の改善から開始して、1〜2ヶ月遅れて下顎の内側に倒れた奥歯を起こす。
顔貌タイプ 骨格タイプの診断の後使用する装置を決定する 使用する主な装置は以下のものです。
2下顎のリンガルアーチ 下顎歯列の拡大
3トランスパラタルアーチ 上顎臼歯の傾斜改善
4フェイスマスク (上顎歯列の牽引) 必要なケースのみ行う
5 2回目の上顎急速拡大(ファン装置 orハイラックス装置)
6 FKO (エフカーオー)機能矯正装置 夜間のみ使用する取り外し可能な装置 最後の仕上げに使用する
急速拡大装置(ハイラックス装置)による治療
1日1回スクリューを1/4回転(0.2mm)させる。2ヶ月かけて60回回すと12mm拡大することになります。他の拡大装置も取り扱いは同様です。
急速拡大装置(バラエティー装置)乳歯列など口が小さいお子さんに使用する拡大装置
リンガルアーチ 下顎歯列(臼歯の正直) (内側に倒れている臼歯を外側に起こす)
トランスパラタルアーチ(TPA) 上顎臼歯の正直 (外に倒れた大臼歯を歯列内に戻す)
FAN(ファン装置)による前方歯列の拡大
FKO(エフカーオー 機能矯正装置)による下顎骨全体の前方回転の誘導
この女の子は9歳6ヶ月時は上顎の幅が狭いため下顎が後退して気道の狭窄がありイビキ、鼻閉による口呼吸による機能障害を認めていました。13歳時には機能障害は改善し鼻呼吸の確立後退していた下顎も本来の位置に戻り非常に整った綺麗な顔貌を獲得したケースです。
また以下は当院の受け口の子供さんのケースですが上記の治療の結果、気道が拡がって口呼吸から鼻呼吸に変化して機能障害の改善がみらました。
治療中の痛み等の不都合な症状は?(副作用など)
上顎骨の急速拡大装置は上顎骨の正中縫合といわれる軟骨のつなぎ目を拡げます。装置を入れて1週間は個人差はありますが、スクリューを回転すると歯よりも鼻の付け根がジワッと痛むという訴えが多くあります。(次第にこの痛みはなくなります)
また最初の1ヶ月間は鼻の通りが悪い子供さんは、鼻水がよく出たり、鼻血が出たりします。しかしこれは『好転反応』と言われるもので全く心配は入りません。それと最初は食べ物が装置の間に挟まって上手く咀嚼できない、硬いものが噛めない、発音がしにくく喋りにくい、下の装置が内側の歯肉に食い込んで痛みが出やすい、 という症状も出ますが、子供さんは適応能力が大人に比べて非常に高いので1ヶ月もすれば全ての不都合はなくなっていると思います。
- 鼻の付け根のジワッとした鈍い痛み(5分間ぐらいで消失します)
- 鼻水がよく出るようになる
- 鼻血が出る事がある
- 物が食べにくい(噛みにくい)
- 喋りにくい(約1ヶ月でほぼ解消します)
いずれも最初の1ヶ月、その後は装置を交換して1週間でほぼ不快症状は解決するケースがほとんどです!
治療の期間はどれぐらいかかるのか。
治療期間は約2年から2年半ぐらいはかかります。その後は永久歯が全て生え替わるまで(12歳ごろまで)3ヶ月毎の経過観察をしていきます。
ケースによっては2期治療(ワイヤー矯正)が必要になる事があります。しかし当院のこれまでの経験では約30%ぐらいです。残り70%はワイヤー矯正は必要なく終了しています。
本当に抜歯せずに治るのか?
これもケースバイケースです。確立として30%ぐらいのお子さんは高校生ぐらいでスペース不足のためワイヤー矯正に移行し、その内の10%は抜歯が必要な診断結果が出ています。しかし1期治療の段階では永久歯の抜歯は決して行いません。
後戻りはあるのか?
通常の矯正治療の場合は、約10〜20%は後戻りがあります。顎顔面矯正については歯を拡げるのではなく、骨の軟骨縫合を拡大して行くので歯の後戻りはほとんどありません
費用はいくらぐらい必要か?
費用は医院によって多少の差はあります。当院の料金設定でご説明します。
まず成長期後の通常の矯正治療(ワイヤー矯正)は¥700000〜¥800000(税抜き)です。
早期の小児矯正(顎顔面矯正)はその半額 ¥350000(税抜き)です。
その他に ¥5000/月 の調整料がかかります。
12歳以降2次治療(ワイヤー矯正)が必要になった場合は残り ¥350000(税抜き)が追加で必要になります。
まとめ
子供たちの健全な成長のためには、成長過程の呼吸を初めとする口腔機能を理解し、機能不全が疑われる場合は出来るだけ早い段階で対処してあげる事が、子供たちの将来的に非常に重要な意味を持つと考えます。
下の永久歯が生え変わるときに内側から生えてきたなどで、異常に気がつかれるお母さん、お父さんが多いです。
これは非常に重要で、そのときに上顎、下顎の乳歯列に生え変わりのための隙間があるか?いつもお口がポカンと空いていないか?鼻詰まりや扁桃腺が腫れやすくないか?イビキはかくか?などをチェックしてお子さんに機能障害があるか知る必要があると思います。
このようなチェックに当てはまるお子さんには、
無呼吸症候群やアレルギー疾患、口呼吸による姿勢の弊害を予防し、健全な成長発育を導く小児矯正(顎顔面矯正)が適応となる場合が多いと思います。